乳がんの原因と予防
乳腺科乳がんの原因
どうして乳がんになったのでしょうか?とよく聞かれます。
実際には様々な原因が複雑に関係して起きてくると言われています。
「がん」とは細胞の病気です。
自分の体の中でエラー細胞が発生し、それが「がん細胞」となってどんどん増え続けることで正常な細胞を侵食していくような病気です。
エラー細胞ができる原因が、がん発生の原因ということになります。
実は人間のからだの中では毎日5000個ほどのエラー細胞が発生していると言われています。このエラー細胞は免疫細胞によって排除されます。
そのため、がん細胞を発生させないためには
「エラー細胞の発生をできるだけ増やさない」
「発生したエラー細胞は確実に排除する」
ことが大切だということになります。
先に1つだけ強調しておきたいのは、がん細胞の発生予防とがん治療は違うということです。乳がんと診断されたら、以下の予防だけではなく、しっかりと治療を受けることが大切です。(詳細は乳がんの予防と検診~乳腺専門医のジレンマ~もお読みください。)
さて、エラー細胞発生の原因ですが、さまざまな要因があります。ほぼすべてのがんに共通とされているものは加齢や喫煙です。その他、発生の部位により、関連の深いものがあることもわかっています。胃がんのピロリ菌や子宮頚がんのヒトパピローマウイルス感染、皮膚がんの日光などです。
乳がんは女性ホルモンである、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の関連が強いと言われています。エストロゲンは月経周期の調整に深くかかわっている大事なホルモンです。(月経の仕組みと女性ホルモン)
エストロゲンは乳腺を発育させる効果があります。胸が張って大きくなりますが、同時に乳腺の細胞に刺激が加わるため、エラー細胞の発生も増えると考えられています。
乳がんリスクが高まると言われているのは、以下のような人です。
- 初経年齢が早い人(11歳以下)
- 閉経年齢が遅い人(55歳以上)
- 出産していない人または初産が30歳以上の人
- 月経周期が短い人
つまり、一生のうち月経回数が多い人が、高濃度のエストロゲンに乳腺が影響される時期が長くなるので、乳がんリスクが高まるということになります。
ただ、エストロゲンをはじめ女性ホルモンの分泌や反応には個人差が大きく、わかっていないこともたくさんあります。採血でエストロゲン濃度を調べたら乳がんになりやすいかどうかわかるというようなものでもありません。
エストロゲンは月経調整や乳腺だけでなく、皮膚、骨、脂肪、脳などにも作用し、エストロゲンが多く分泌されている時期は、肌つやがよくなり、骨も形成され、代謝も上がり、痩せやすい体になり、精神的にも安定します。そのため、ニキビ治療でピルを用いることもあります。ダイエットサプリなどにピルに似た成分が含まれていることもあります。逆にエストロゲン過剰になると手足の冷えや月経不順、疲労感などが出る場合もあります。
女性にとってエストロゲンは体調を整える作用があり良い効果も多いのですが、過剰になると不調もきたすため、バランスが重要です。きちんと医師のチェックを受けながら使用していきましょう。
遺伝性の乳がんについて
もう一つ、がん細胞が増える原因として「遺伝」があります。
人間のからだには突然変異でエラー細胞が発生したときに、細胞自身が自分でエラーを治す機能があります。それを修復といいます。この修復する機能が遺伝的に弱い方がいるのです。
特に乳がんと卵巣がんが遺伝的に発生しやすい方を遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)と言います。これはBRCA1/BRCA2という遺伝子の変異が原因とわかっていて、乳がん全体の5~10%と言われています。
また、BRCA遺伝子以外にも、いくつか遺伝が原因のがんがあることがわかっています。遺伝子変異があると必ずがんになるというわけではありませんが、がんが発生する確率は高いので、ご家族に乳がんの方が多い方は、定期的に検診を受けた方がよいでしょう。
また、エラー細胞を発生させるような喫煙などは、極力避けた方がよいということになります。
乳がんを予防するという意味では、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と診断された方は、予防的乳房切除術を受ける選択肢もあります。現在はある一定の条件で保険も適応されます。
遺伝性乳がんについては専門的な対応が必要な「個性」としてとらえ、理解したうえで、自分らしいケアを選択していくことになります。当院ではご希望の方に遺伝性乳がんに関する一般的なことについてご説明しております(要予約 保険診療外)。その上でさらに相談、検査のご希望があれば専門機関にご紹介することも可能です。
乳がん発生と生活習慣・環境
生活習慣や環境を改善することで乳がんを予防できるものがないか、様々なものが研究されています。
すでに説明した喫煙のほか、閉経後女性の肥満やアルコール摂取は乳がんの発生リスクが上がると言われています。
逆に運動や授乳は乳がん発生を抑える可能性があると言われています。
閉経前の肥満については日本と欧米で報告が異なっています。これは私見なのですが、閉経前の乳がんはエストロゲンの影響が非常に大きいため、肥満が乳がん発生に与える影響が相対的に小さく、研究によってばらつきが出てしまうのではないかと考えています。
乳がん発生リスク アラカルト
よく「牛乳は飲んでもよいですか?」と聞かれます。現在は、牛乳は乳がんリスクを下げる効果があるかもしれないと言われています。牛乳は牛のミルクですから、脂肪分やミネラルなど、様々な成分が含まれていて病気との関連を直接結びつけるのは難しいといえます。牛乳に限らず、食事はバランスよく適度な量を取るのが一番よいと考えます。
放射線ですが、健康診断などで定期的に受ける程度の放射線被ばくではまず心配ないと言われています。例えば小児がんや気胸などで、若いうちに頻回に放射線照射が必要とされた方では、がん発生リスクは高まると言われています。
糖尿病の方は免疫をつかさどる白血球(好中球やリンパ球など)の動きが鈍るので、がん細胞の発生率も上がると考えられます。
母親が乳がんになった方は発生リスクが約2倍になると言われています。母と姉妹に2名乳がんの家族がいる場合は3.6倍、第2度近親者と言われる祖母、孫、おば、姪に乳がんの方がいた場合には1.5倍と言われています。遺伝性だけでなく、生活習慣などが似ることから発生する家族性乳がんも含まれていると考えられます。
夜間勤務はホルモンバランスの乱れや電光を浴びことなどが関連するのではと言われています。20年以上の勤務でリスク上昇の可能性があると言われていますが、不明なことも多く、さらなる研究も必要とされています。
現在使われているピルにおいて、乳がん発生リスクは1.1倍と言われています。一見リスクがあるようで心配かもしれませんが、卵巣がんや子宮体がんは予防する効果もありますので、相対的にメリットのある薬と考えられています。月経でトラブルのある方には非常に効果がありますから、定期的に乳がん検診も受けながら使用するのがよいでしょう。
ホルモン補充療法は更年期症候群の方に用いられる治療ですが、乳がんリスクは1.26倍と言われています。これも更年期の症状とのバランスが重要です。きちんと検診を受け、ケアしながら治療するのがよいでしょう。