乳房の病気や悩みについて
乳腺科某女性雑誌で乳がん(若年)と胸の悩みについて記事を担当しました。紙面の関係で全部掲載できませんでしたので、こちらでご紹介させていただきます。
乳がんについて
乳がんとはどのような病気ですか?
乳がんとは乳房にできる悪性腫瘍のことです。
乳がんは年々増えています。乳がんの原因は月経周期をつかさどる女性ホルモンのエストロゲンが最も関係が深いことがわかっています。そのため、栄養状態がよくなり出産回数が減少したことで、一生のうちの月経回数が増えたことが、乳がん増加に関係していると言われています。
乳がんは細胞の病気です。乳腺にがん細胞ができてゆっくりと増えて、しこりを作ったり広がったり進行していきます。乳がんはがんの中でもゆっくり進行することで知られており、1cm程のしこりになるのに約10年かかると言われています。その間、症状はほとんどありません。症状が無いうちに発見し、適切な治療を受ければほとんどが治りますので、定期的な検診を受けることが大切な病気と言えます。
乳がんと診断された場合の治療方法は、診断された段階や乳がん細胞の性質により異なります。おおむね1.見つかった病変の切除、2.再発防止のための治療、3.再発していないかどうかの定期検査という流れで行われます。治療後10年間は定期的な受診が推奨されます。
乳がんの若者の発症率や危険性をおしえてください。
2016年1年間で乳がんと診断された方(罹患数)は、とうとう10万人を超えました。生涯のうち日本人女性の10人に1人が乳がんにかかることになります。35歳から急激に増え始め、40~60歳代が最も多いです。34歳未満で乳がんと診断された方は、厚生労働省のデータによると全乳がんのうち約1.5%で、2016年は1620人でした。
一見少なく思えますが、20~30歳代はもともとがんになる方が少ないことと、診断されたあとも10年間は治療を続けていく方が積み重なっていくことから、対策がとても重要と言えます。
また、乳がんはほかのがんに比べると比較的生存率が高く、乳がんで亡くなる方は65人に1人しかいません。乳がんにかかり治療中や治療を終えた方を乳がんサバイバーと言います。20~30歳代の乳がんサバイバーは、妊娠・出産や授乳、結婚、仕事など様々なライフイベントが手術や薬物治療と重なるため、乳がんとどう向き合って、人生設計を考慮しつつ適切な治療方法を選択するかという大きな問題を医師と一緒に考えていくことになります。
乳がん予防のマッサージや、セルフチェック方法があれば教えてください。
乳がんになることを予防する方法というものは残念ながらありません。乳がんはエストロゲンが最も関係していると言われていますが、これを無くすことはできないからです。ほかに乳がんリスクが上がると言われているものに、喫煙、初潮が早い方、閉経が遅い方、出産回数が少ない方、乳がんのご家族がいる方が挙げられます。また、適度な運動や規則正しい生活はホルモンバランスを整えることで乳がん予防につながります。
ただ、乳房はもともとホルモンの影響でむくんで痛みやすいので、乳房マッサージすることで張りを抑え、痛みを軽減する効果はあるかもしれません。
乳がんのしこりは硬くてほとんど痛みはありません。20~30歳代は良性のしこりや乳腺そのものが硬く触れることがあり、難しいかもしれませんが、月1回セルフチェックをすることで変化に気が付けることがあります。触るときは乳房をわしづかみするのではなく、指の腹で軽く押して皮膚の上をずらすように動かしましょう。しこりを見つけても良性のことも多いので、見つけたら怖がらず、きちんと受診して検査を受けましょう。
どのくらいの頻度で検診に行くべきでしょうか。
乳がん検診は1~2年に1度がよいでしょう。乳がん検診で行う検査はマンモグラフィと乳腺エコーがあります。基本的には35歳未満の方は乳腺エコー、40歳以上はマンモグラフィが勧められます。しかし、乳房は個人差が非常に大きくマンモグラフィでは病気が写りづらい場合や、良性の変化のため一つの検査では判断することが難しい場合もあるため、ケースバイケースで両方受けた方がよいこともあります。ご家族に乳がんの方が多く遺伝性が疑われる方は、半年ごとに検査を受けた方がよい場合もあります。
またまれですが、進行の早い乳がんでしこりが急激に大きくなって発見されることがあります。毎年検診を受けていても、しこりに気が付いたら受診しましょう。
読者からの胸周りの悩み
Q.胸が小さいのが悩みです。大きくする方法はありますか?
A.
胸は乳汁を作る乳腺と脂肪と形を支える組織で構成されています。乳腺は女性ホルモンの影響で増大します。胸の大きさは個性であり病気ではありませんので美容外科の範疇になります。(当院では豊胸治療は行っておりません)
バストアップ目的に販売されているサプリメントの中にプエラリア・ミリフィカが含まれているものがあります。これは作用の強い植物性エストロゲンのため、ホルモンバランスを崩し、皮疹や腹痛・下痢、不正出血や月経異常などの健康被害が報告されています。大豆に含まれるイソフラボンも植物性エストロゲンですが、作用が弱いので問題ないとされています。サプリだけに頼るのではなく、バランスの良い食事を心がけるのが最適でしょう。
手術で大きくする豊胸術は、シリコンバッグを入れるものや脂肪注入などもあります。手術ですのでリスクがゼロではありませんし、将来的に乳がん検診を受けるのに制限が出ることがあります。医師とよく相談して納得して受けるようにしましょう。
注入法は乳房に注射をするもので手軽ですが、注入する薬剤や技術により効果も様々です。また注入物にはいくつか種類があり、過去に使われていましたが健康被害が報告されて、今は使われなくなったものなどもあります。よく説明を聞いて受けるかどうか決めましょう。
Q.ナイトブラはつけるべきでしょうか?
A.
ナイトブラは夜寝ているときに胸が背中側や下側に流れるのを防ぎます。形が崩れるのを防ぐという美容的な効果もありますが、乳房の大きい方は、寝返りを打った時に胸が揺れることで目が覚めて、安眠の妨げになることを防ぐ効果もあります。サイズが合わないものやワイヤーなど体の締め付けがあるものは逆効果になるので、ナイトブラは専用のものを用意してつけましょう。
Q.乳頭陥没は治せるのでしょうか?
A.
陥没乳頭は乳頭が凹んでいるものを言います。引っ張ると出てくる仮性と、出てこない真性があります。10人に1人と比較的よくみられます。
陥没乳頭が問題になるのは大きく2つです。1つは分泌物などが中にたまってしまい、炎症を起こし膿が溜まる場合です。膿を作った場合は、切開して膿を出す処置が必要です。1回で治ることも多いですが、繰り返す場合には乳頭形成術を行うこともあります。
もう1つは授乳障害で、赤ちゃんがうまく母乳を吸えないというものです。ただ、妊娠前に陥没乳頭でも、出産し乳房が張ってくると乳頭が出てくることもよくあります。また赤ちゃんが慣れてうまく吸ってくれることも多いので必要以上に心配することはありません。場合によっては搾乳して母乳をあげなければいけないこともあります。もし授乳前に乳頭形成術を希望される場合は、乳管を温存する必要があり、形成外科で治療することをお勧めします。(当院では乳腺炎・膿瘍治療は行っておりますが、乳頭形成術は行っておりません。)