乳がん検診について
乳腺科乳がん検診とはなにか
乳がん検診とは乳がんを早期に見つけるための検査のことを言います。患者さんから「ドックで乳腺エコーはやったけど乳がん検診は受けていません」や「会社の検診でマンモをやったかもしれませんがよくわかりません」などと言われます。それはドックの中に乳がん検診が含まれているということなのです。
乳がんは症状はほとんどありません。(乳がんについて)そのため、乳がん早期発見のために検診が大切なのですが、乳房痛などの症状があって乳腺科を受診した方もいるかもしれません。これは厳密には「乳がん検診」とは言いませんが、検診と同等かそれ以上の検査をされていることがほとんどです。受診して異常がなかった場合、追加で乳がん検診を受ける必要はほぼありません。
どこで受けるのか
会社の職場健診は「法定健診」と言って、労働安全衛生法により、会社が従業員に対し、最低限行うべき健康診断が義務付けられており、その内容も決まっています。ほとんどの会社は、保険組合や医療機関と契約して健康診断を依頼するわけですが、その際に福利厚生としてがん検診も合わせて実施しているところが増えているのです。ほとんどは、マンモグラフィや乳腺エコーのいずれかの検査が行われていると思います。
ドックは、一般に全身を健診することを総称して言いますが、法的な定義はありません。内容も医療機関によって様々ですが、おおよそ法定健診の内容は網羅されています。なので、会社によっては個人で受けたドックに補助金を出すという制度にしているところもあります。ドックに子宮や乳腺の検査を含む場合に、レディースドックと名前を付けてわかりやすくしていることも多いです。検査内容はやはりマンモグラフィや乳腺エコーが多いですが、まれに腫瘍マーカーやPET検査などが行われている施設もあります。検査の種類については後ほど説明します。
お住まいの地域で「乳がん検診」を受けた方も多いと思います。これは、健康増進法により定められた、国(厚生労働省)推奨のもと、市区町村が実際に行う事業のことで、「対策型検診(公的検診)」と言われます。これは公費で「国民の健康増進」を目的に行う事業ですから、その根拠が大切です。現在、乳がんの死亡率減少効果が証明されている検査は、マンモグラフィしか該当していません。
ですので、ほとんどの地域で、40歳以上の女性に2年おきにマンモグラフィ検査が行われていますが、さらに30歳以上に超音波検査をおこなっている地域もあります。この理由については後ほど説明します。
なんの検査を受けるのか
前述したように、「対策型検診」というのは、公費を費やして行う事業ですから、やはり費用にみあう効果が必要です。乳がん検診の場合の効果は「乳がんで死亡する国民を減少させる」ということになります。その結果がでているのが、現在はマンモグラフィのみなのです。
公費ではなく、職場や個人で行う検診やドックは、すべて「任意型検診」と言います。この任意型検診で行うがん検診の検査内容には、決まりはありません。
ですので、マンモグラフィはもちろんOKですが、乳腺エコー(超音波)も、乳房MRIも、痛くないマンモグラフィと言われるPET検査やPEM検査も、血液1滴でわかるがんも、がんを見つける犬も、がんが見つかるブラジャー(!)も、すべて「乳がん検診」となります。ただマンモグラフィ以外の検査は、「乳がんの死亡減少効果」が、今はまだ証明されていないものということになります。
このように職場やドックで乳がん検診を受けて要精査と言われた場合に、どの検査を受けて引っかかったのかというのがポイントになりますので、検診結果を持ってきていただくのはとても重要な情報になります。
理想の検査方法
検査は乳がんを見つけるだけでは完ぺきではありません。乳がん以外の病気を異常と指摘しないというのも大切な条件になります。その他、いつだれが行っても同じ結果になること、かかる費用が安いこと、検査が簡便で受診者の負担が少ないことなども考慮が必要です。(図参照)
マンモグラフィは特に、最後の「痛み」について気にかかっている人が多いと思います。マンモグラフィ機器も昔に比べるとだいぶ進化しており、痛み軽減、画質改善、被ばく低減がなされてきています。
乳腺エコーについて
さて、乳腺エコーは死亡率減少効果が確認されていないといいましたが、検診でエコーを受けた方はたくさんいるのではないでしょうか。
乳腺エコーは、がんの診断にずっと以前から用いられていた検査方法です。当然有用な検査と考えられており、研究が進んでいます。2016年に「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験(J-START)」の結果が報告され、マンモグラフィとエコーを両方行った場合の乳がんの発見率は、マンモグラフィのみに比べて1.5倍に上昇し、特に小さなしこりを見つけるのに優れていることがわかりました。
ですが、同時に乳がん以外の良性の病気も見つけてしまうこと、検査技師や機器による差があることなどの欠点もあります。さらに検診の目的である「乳がん死亡率減少効果」がまだ証明されていません。
現在は、試験的な位置付けとして、一部地域の公的検診に乳腺エコー検査が組み込まれ、研究がなされている途中です。ほかにも理由はあるのですが、受診する市区町村によって乳がん検診の内容に違いがあるのはこのためです。エコー検診が受けられる地域の方はぜひ受診してください。
マンモグラフィか乳腺エコーか
任意型検診を行っている施設には、ほぼエコー機器があるため、すでに乳腺エコー検診が導入されています。マンモグラフィとどちらか選べますと言われることも多いようです。どうしたらよいのか悩みますよね。
検査の特性から言うと、マンモグラフィで見つけやすい早期乳がんと乳腺エコーで見つけやすい早期乳がんはタイプが違います。
マンモグラフィで見つけやすいのは石灰化を作るタイプの乳がんで、このタイプはゆっくり進行することが多く、2年に1回でよいとされます。また、マンモグラフィではしこり(腫瘤)も写るのですが、乳腺濃度が高いとわかりづらく見落としがちであることがわかっています。(乳がん検診でよく記載されている分類:乳房の構成)
乳腺エコーは石灰化は見つけづらいですが、しこりを見つけるのには優れていますので、マンモグラフィの欠点を補うことができます。特に乳腺濃度が高い人はエコーも併せて行うと、乳がんを見落とす可能性が減るということになります。
マンモグラフィと乳腺エコーを両方検査できるのがベストかと思いますが、片方しかできないのであれば、毎年交互に受けるのがよいと思います。
乳房・乳腺の個人差
乳房は、乳腺と脂肪と線維組織から成り立っていて、その割合や量、形は非常に個人差が大きいです。ホルモンや授乳の影響を受ける乳腺は、年齢によっても良性の変化が認められやすいです。(乳腺の構造と生理的変化)
その千差万別の個人差や良性変化を、検診ですべて判定しきるのは非常に難しいです。
精度管理と言って、乳がん検診に携わるものは基準を学んだうえで、それに従い判定しておりますが、初見だと判断に悩むものもあります。初めて乳がん検診を受けますと精密検査になりやすいのはこのためです。乳がん検診はできるだけ同じところで、前年と比較してもらいながら行うのが望ましいと思います。
特にエコーは、前述したように施行する技師や機器によっても結果に差が出ます。専門的な知識をもって検査を行い、きちんと説明をしてもらえる乳腺専門クリニックで受けられると、より安心できると思います。
進化中の乳がん検診
1960年代に視触診検診からはじまった乳がん検診は、2000年にマンモグラフィ検診が導入され、データの蓄積や機器の改良を経て進化しながら、現在の乳がん検診の形となっているのです。
現時点で最良と考えられる方法が検診として行われていますし、より精度の高い検診の未来のために研究が続けられています。今後も進化するであろう乳がん検診を皆さんが受診することは、その進化の一端を担うことにつながるのだと思います。ぜひ乳がん検診を受けてください。